将来の自立に向け、少しずつ練習を積み重ねている高等部2年生の長女

――自立に向け、具体的にどのような練習をしているのでしょうか?
工藤 親元を離れ、1人で生活する練習をしています。娘の通う特別支援学校では、希望者が校内にある寮に泊まる「入寮経験」をするカリキュラムがあります。男子フロアと女子フロアに分かれていて、食事や余暇の時間は一緒に過ごしますが、完全個室で就寝などプライベート時間を過ごします。
入浴や歯磨き、洗顔などを寮の先生と一緒に練習し、朝食に何を食べるか決めて買い物に行くなどしています。私と一緒だと、幼児期の習慣が抜けず、自分でやろうとしないのですが、親元を離れることで、1人で取り組もうとするようです。
学校から洗髪や体洗いの手順表をもらい、週に1回、自宅でもヘルパーさんと練習しています。
最近は地元にある、障害のある子ども向けショートステイも楽しみにしています。施設に連れて行くと、すぐに中に入っていきます。思春期に入り、親と過ごすよりも本人は楽しいみたいです。同世代のお友だちやお姉さんのようなヘルパーさんと買い物に行ったり、遊んだりして充実したお泊まりの時間を過ごしているようです。
自立に向け、娘なりに歩む姿を見ると、これまでたくさんの人が彼女の成長を見守ってくれたおかげだと感謝しています。
――娘さんが高等部2年生となり、工藤さんの仕事の取り組み方も変わってきましたか?
工藤 先日、18年ぶりに宿泊を伴う出張に行きました。娘を妊娠してから初めてのことです。担任の先生が「娘さんは大きく成長しているので、今だったらできると思います」と言ってくれたのが大きかったです。
先生は、カレンダーに私の写真を貼り、いつ私がいないのか、帰宅する日はいつかがわかるようにしてくれました。娘は急な変化が苦手なため、私が出張する数日前からカレンダーを学校でも見せて、スムーズに適応できるよう配慮してくれたんです。
私が出張中、娘は寝る前に少し泣いていたそうですが、1人で眠れたそうです。小さいころは私がそばにいないと不安で、嘔吐するまで大泣きしていた姿を思い出し、娘の成長を実感しました
でも、私が出張から戻って4日後、娘は10カ月ぶりにてんかん発作を起こしてしまいました。振り返ってみると、そのときの私は仕事が忙しく、余裕をなくしていたんです。出張というイレギュラーなことに、気持ちを言語化できない娘がストレスを抱えていたことに気づけずにいたんです。娘の成長を過信しすぎて無理をさせてしまったと反省しました。
ただ、親は老いていきます。私がこの世からいなくなっても娘が困らないためにも、負担をかけすぎないように配慮しながら、一歩ずつ進んで行けたらいいなと思っています。
会を立ち上げ、現在は全国約400人のママ・パパとつながるように

――現在は出張にも行けるようになったとのことですが、仕事に復職したときは育児と仕事の両立に大変だったのではないでしょうか?
工藤さん(以下敬称略) 「毎日が綱渡り」と思うくらいギリギリでした。4歳のとき「知的な遅れを伴う自閉症」と診断された娘は、同年保育園に入園しました。私はその年に復職しましたが、1人だけでは回りませんでした。お迎えなどはヘルパーさん、シッターさん、私の父などに協力してもらっていました。育児と仕事の両立は、どのママも大変だと思います。でも成長とともに子どものできることが増え、手が離れていくものです。
娘は、特別支援学校高等部2年生になる現在も2歳程度の知能で、入浴や歯磨きの介助が必要で成長しても手がかかります。
育児と仕事の両立は短時間勤務でないと難しかったです。ただ、当時の会社の規定では、短時間勤務が利用できるのは子どもが小学3年生の年度末まででした。
経済的に自立するのは難しいであろう娘のため、私はなんとしてでも働く方法を探る必要がありました。
――仕事を続けるため、どんなことをしましたか?
工藤 2016年11月、同僚8人と朝日新聞社内で「障がい児及び医療的ケア児を育てる親の会」を立ち上げました。周囲からは「頑張って」ととても好意的な反応があり、たくさん支えてもらいました。2017年度から、朝日新聞社では障害や疾患がある子を育てる従業員については、子の状態に応じて短時間勤務や勤務配慮の延長が認められるようになりました。
現在は「障がい児及び医療的ケア児を育てる親の会」は全国のさまざまな地域、職種の約400人のママ・パパとつながっています。
――2024年5月に成立した「改正育児・介護休業法」が2025年4月からいよいよ施行されます。
工藤 私たちのような働き手にとって、期待が高まっています。
障害児の親たちが働きやすくなるよう、かなり配慮され、非常に画期的なものです。以前は、子が3歳になるまで、未就学までなど、健常児の育ちを基準としていた短時間勤務などの取得期間をそれぞれの困りごとに合わせ、柔軟で具体的な働き方を交渉できることになりました。
親たちは子どものために働きたいですし、福祉を受けるだけでなく税金だって納めたいんです。